Q.A社が業務停止処分を受けたのは、どういった理由なのでしょうか?

 

A.以下はあくまで私が調べた記事からの推測ですので、事実でないこともあるかもしれませんし、私見も相当入っているものとしてお読みください。

 

今回問題とされたのは、主に以下の3つのようです。

1.第二種金融商品取引業の登録なくしてファンドの販売を行った

2.月5万円積み立てていけば1億円貯まるような広告は誇大広告

3.投資実績に不満を持った顧客からの依頼で2年分の報酬約900万円の免除もしており、これも顧客への利益提供にあたる

 

そこで、プロの立場から、金融商品取引法に照らし、以下、解説します。

 

①第二種金融商品取引業の登録なくしてファンドの販売を行った点について

 

まず、同社は、よくある無登録業者ではありません。同社は、ちゃんと「投資助言代理業者」として、登録されています。すなわち、ライセンスは持っている業者なのです。

そして、投資助言代理業者は、

1)投資顧問契約に基づき、有価証券の価値等または金融商品の価値等に関する助言を行うこと
2)投資顧問契約又は投資一任契約の締結の代理又は媒介

を業として行えます。

株式、債券等の有価証券のほか、ファンドの匿名組合出資持分や不動産信託受益権も有価証券の範囲として取り扱われますので、これらに関する助言業務を行う場合も、投資助言代理業の登録が必要です。

投資助言・代理業の業務範囲は、顧客に対して有価証券の価値や分析に基づく助言(アドバイス)のみとなりますから、株式や投資信託、ファンド等の中から顧客に適した投資先を選定し、アドバイスをし、アドバイス料として報酬を得る、というのが一般的な業務内容となります。

ですから、同社が投資先についてアドバイスをし、その対価を受け取っていることはとくに問題はありません。

しかしながら、報道によれば、同社は、特定のファンドを顧客に推奨し、同社の親会社は関連会社経由で、これらのファンドから広告料名目で報酬を受け取っていたが、対外的には販売手数料は受け取っていないと説明していたようです。

このような業務を行うには、「第二種金融商品取引業」という「投資助言業」とは別のライセンスが必要になるため、この業務はいわゆる「無登録営業」にあたるとして、金融庁は「業務停止処分6ヶ月」という処分を下したということです。

ちなみに「6カ月の業務停止処分」は「登録取り消し」に次ぐ厳しい処分ですので、一般的には「かなり厳しい処分」であるといえます。

 

では、このような重い処分の背景には何があったのでしょうか。

以下は推測にすぎませんが、まずは販売の相手方の大半が「投資の素人である一般人」であり、「3000人あまり」という結構多くの人に販売されていたことです。

プロが相手の場合は、仮に法律に違反している場合でも、投資家はそのリスクを承知で投資しているわけですから、投資家を保護する必要性は低くなりますが、一般の素人相手では、より投資家保護の必要性は高まります。

また、本当は少人数が相手でも多数の顧客がいても法律上ダメなものはダメなのですが、やはり規模が大きくなると、もし何か起こったときの被害額も大きくなり、社会的な影響も大きくなります。そこで、かなり大規模に広告を出し、一般顧客の多かった同社を処分したと思われます。

もうひとつの理由は、本音を言えば、金融庁が一般の方に海外の会社のファンドを買わせたくない、ということはあると思います。

もし仮に同社の紹介したファンドが大規模な損失を出した場合、被害者は現在で3000人あまり、ということになります。そして損害を被った被害者たちの矛先は、会社だけではなく、金融庁にも向きます。「金融庁は何で違法営業を放置していたんだ!責任をとれ!」と言ってきます。

こうなってしまうと、収拾がつきません。また、海外にあるファンド会社を何かことが起こってから処分することは現実には相当困難です。

そこで、早めに厳しい処分で対応することで、監督官庁としての責任を果たしておきたかったということもあるのではないでしょうか。

 

ただ私の疑問は、「なぜ同社が第二種金融商品取引業の登録をしなかったのか?」ということです。

よく新聞報道で個人や会社が無登録でファンドを販売して逮捕されたりしていますが、彼らの多くは「登録をしたくない」のではなく、「したくてもできない」のが現実なのです。

第二種金融商品取引業登録の条件は、主として(本当はもっと複雑ですが)以下のとおりです。

①会社の場合、資本金1000万以上(資本金規制)

②業務を行える組織、体制の整備(人的体制の整備)

③複雑な書類の作成と提出

 

この中で、特に難しいのが、「人的体制の整備」です。基本的に本を読んで勉強したのではだめで、「業務経験」が問われます。そうすると、そのような方を探してこないといけないわけですが、なかなかそのような方はいないし、いても高給を払わないといけないので、小さな会社や個人ではなかなか簡単に条件を満たせず、登録を諦めているケースは多いです。

ただ、同社ぐらいの規模であれば、そのような方を見つけて社員にすることはさほど難しくなかったでしょうし、第二種金融商品取引業の登録の条件を満たすコンプライアンス体制を構築するのはさほど難しい話ではなかったように思われるのです。

また、現在は、投資助言業においても第二種金融商品取引業と同程度のコンプライアンス体制を講じないといけないことになっていますので、投資助言業を行うだけでも第二種金融商品取引業と同じような手間はかかるはずです。

なので、筆者からすると、第二種金融商品取引業の登録をしなかったのは、本当に「謎」です。法律を知らなかったはずはないし、ちゃんと登録しておけば、処分にならかったのに、なぜ?とつくづく思います。

 

 

②月5万円積み立てていけば1億円貯まるような広告は誇大広告である、という点について

金融商品取引法では、誇大広告を禁止しています。

そして、今回問題となっているのは、同社の「毎月5万円積立てていけば1億円貯まる」といった広告についてのようです。

月5万円×1年=60万円で 1億円÷60万円=166.6666・・・ですから、「あれ、1億円貯まるまでに166年かかるじゃん、俺、多分166年後とか多分死んでるし!おかしいぞ??」となるわけですが、同社のサイトには小さい字で「年利10%の利回りを前提とした場合・・」ということが書かれており、その前提だと複利効果で元本は7~8年で倍になります。

それだと、30年ぐらい積み立てれば確かに1億円ぐらいになりますね。

但し、一般的に30年間も10%のパフォーマンスを「毎年」続けるというのは、「投資の神」レベルでないと難しいと思います。好成績を収めているファンドでも、30年間一度もマイナスになったことがないファンドというのは「奇跡」レベルです。

ですから、もちろん現実には可能性は0ではないですが、そうなる可能性は一般的にはかなり低いのでは・・・ということになってしまいます。

確かにWEB上には架空のシュミレーションに過ぎないことは書いていたのですが、違法となるかの境目で重要なのは、「全体としてみて、一般の人がその記載を見て、誤解を招かないか?」ということです。

そして一般の人は、キャッチフレーズに目を引かれますから、目を引くキャッチフレーズを書く場合には、特に誤解を招かないよう、しっかりとしたリスクについての説明が必要です。

もし仮にこれを完全に誰が見ても適法にやるとすれば、「このようなパフォーマンスの高いファンドはほとんどありません」「景気の変動によりマイナス運用もあります」「手数量や税金もしっかり引かれます」といったことをつらつらと書かねばなりません。

ただ、これは業者にとっては、簡単にできることではありません。

もしこれが寿司屋だったらどうなります?

大将「お客さん、今日のトロはうめえよ、お得だよ!でも、水銀やゴミが入っているかもしらねえし、放射能に汚染されている可能性もある。お客さんによっては口に合わないこともあるし、食べたら下痢になる奴も0ではねえんだよ!」

・・・商売になりません。

なので、結局のところ、多くの会社は、商売上、小さい字で気づきにくく書く、ということになるわけです。

確かに法律を厳格に適用すると、かなり多くのケースで広告が違法となってしまうので、ちょっとぐらいの行き過ぎであれば、通常はまずは改善の指導にとどまりますが、今回はかなり厳格に法律を適用し、この点も問題にしているようです。助言業者の中には、肝を冷やした業者もいたかもしれませんね。

 

 

 3.投資実績に不満を持った顧客からの依頼による報酬の免除が顧客への利益提供にあたるという点について

これ、何が問題なの?顧客が損しないように頑張ったんだから、いい会社じゃん!と思う方がいるかもしれません。

しかし、金融商品取引法では、顧客の損失補填を原則禁止しています。

これがなぜダメかというと、投資対象商品の公正な価格形成が阻害されたり、金融商品取引業者に求められる市場の担い手としての責務に背き、投資家の信頼を損なうからです。当事者がOKだったらいいのではなく、もっと大きく、あくまで公益を守るという理由からなのです。

つまり、投資助言業者は、自らのアドバイスした投資商品で顧客が損失を被り、顧客が「金返せ!」と言ってきたとしても、原則として断らなければいけない、ということです。

顧客:サービスが役に立たなかったので返して欲しい

業者:サービスが役に立たなかったのであれば、申し訳ないから返します

といった、日常的によくあることが、金融商品取引業者はできない、ということで、なかなか厳しいものだ、ということを知って頂ければ幸いです。

なお、今回の記事を見て、AIJ投資顧問やMRIインターナショナルの事件を思い出し、「また大規模な被害者が出たのか・・・投資って怖いな・・・」と考えた方がいるかもしれません。

しかし、今回の事件においても、受け取っていたのは助言報酬や海外のファンド会社からの実質的キックバック報酬のようであり、投資資金を同社が預かって他に流用していたり、虚偽の運用報告書を出していたわけではありません。

ですから、投資先のファンドが適正に運用されている限り、顧客に大規模な損害が出たということではありませんので、その点はニュースを読む際には注意する必要があるかと思います。

金融商品取引業者の方々におきましては、決して他人事ではなく、コンプライアンスについては年々厳しくなっていることを肝に銘じ、日々の業務に取り組むことが必要であることを切実に感じた一件ではなかったかと思います。

※本記事については、報道資料等を参考に書かれています。記事や報道資料が必ずしも真実とは限りませんし、当見解は個人の感想にすぎませんので、その点ご了承ください。